#14

 

結局、そのあとも、裕之は田島に振り回されっぱなしだった。

検査室に放り込まれ、終わった頃に現れるとまた別の検査室に連れて行かれ・・・。

心底自分を心配してくれていた八神の手前、おとなしく田島の指示に従っていたが、

もうそろそろ限界が来ようとしていた。

 

(も〜〜だめだ!八神さんのためにって、ずっと我慢してたけど、

なんだってこいつの言いなりにならなきゃいけないんだ!!

ちくしょー!もう我慢なんてできるかっ!)

 

怒り爆発寸前の裕之とは正反対に、田島の方はなぜか終始ごきげんで、

異様にさわやかで明るい笑顔が、余計に裕之の神経逆なでする。

 

(なんだってこいつはこんなに機嫌がいいんだよ!

いつもなら今にもオレのこと、殺しかねない勢いでにらみつけてくるくせに。

・・・わけのわからん誤解をしてさ)

 

挙句、勝手にひとりで暴走して大暴れして・・・。

 

(オレに怪我までさせやがって・・・こいつがあんなに暴れなきゃ、

オレはこんなところへ来ることは無かったんだ!)

 

考えれば考えるほど腹が立ってくる。

今にもキレてしまいそうな気がしたが、さすがに病院内でキレるのはまずい。

裕之はできるだけ元凶である田島のニヤけた顔が視界に入らないよう、

目を逸らすと、少し距離をおいて田島の後ろをついていく。

そのせいで、田島が次の角を曲がったことに気づかずに、そのまま通り過ぎようとしていた。

 

「あ、おい!こっちだ」

 

田島が慌ててガシっと裕之の腕を掴んで引き戻す。

その瞬間。裕之の頭の中で何かが音を立ててキレた。

 

「触んなっ!!」

 

物凄い勢いで田島の手を振り払うと、さらに怒鳴り続ける。

 

「オレに触んな!!もううんざりだ!オレは帰るからな!!」

 

突然の大声に、周囲の人たちがびっくりして、一体何事かと二人の方へ視線を向ける。

それに気が付いて、裕之は慌てて声をひそめた。

 

「触んなよ!変態ヤロー!もう検査は済んだんだろ。じゃ、オレは帰るからな。

八神さんに言っといてくれ!先に帰るって」

 

声はひそめたが、抑えられた怒りが今にも溢れ出てきそうだった。

が、田島は裕之の怒りをものともせず、一層ご機嫌な様子で笑っている。

 

「さっきからギャーギャーと、いったい何を怒ってるんだおまえは」

「な、何をって・・・!!」

「帰るッたって、おまえ、八神の車で来たんだろ?いったいどうやって帰るんだ?

それに俺の控え室に、おまえの好きそうなケーキをホテルから取り寄せてるんだ。

せっかくだから食っていけって。何をカリカリしてるんだか知らんが、何か食ったら納まるだろ」

「ちょっとまて!あんた・・・!」

 

たまたまその時二人の横を通って行ったナースが言い争っている様子を見て

 

(あら〜。真昼間から、痴話げんかですかぁ〜?)

 

とでも言いたげな視線を二人に送ると、クスっと笑って何も言わずに通り過ぎていく。

それを見て裕之はさらに声をひそめた。

 

「・・・あんたさ。オレに悪いことしたとか思ってないワケ!?」

「なんだよ。俺がなにかしたか?」

「なななな・・・何をって!オレにこんなケガさせたのはあんたじゃないか!!

オレに襲い掛かって!あんな・・・・」

「あ〜あのことか。あれはおまえ、朝ちゃんとあやまったじゃないか」

「・・・・・・・!!」

 

そういえば朝に“悪かったな”という言葉を聞いたような気がする。

しかしとてもじゃないがあれが謝罪の言葉だなんて全然思えなかった。

 

「あんな・・・たった一言で済ますつもりかよ!オレがどんなに・・・・・・」

「しかたないだろ。あれはちょっとした誤解だったんだ。

八神からもそのへんの事情は聞いたんだろ?説明したって言ってたぞ。

だったらもういいじゃないか。終わり終わり!!」

 

(ちょっとした誤解で済ます気かーーー!!)

 

が、裕之がそう叫ぶ前に、田島は再び裕之の腕を掴むと、

角を曲がった先にある、専用エレベーターの方へと引きずっていく。

あっけにとられて、言葉を失ってしまった裕之はなす術もなく、

エレベーターの中へ、引きずり込まれていった。

 

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