This nighit,Last night
#1
クリスマス・イヴで賑わう街に 今年も恋人達の切ない歌が流れている。
(ふん!お決まりのクリスマスソングだ。もういいぜ!!)
葉山は心の中で毒づく。 書店での買い物を済ませて店を出ると、外はすっかり夜になっていた。 吹く風が一段と冷たくなっている。
(ちっ!手袋持ってくりゃよかったな・・・)
しかたなくコートのポケットに手を突っ込んだ。 長身を持て余すように少し前かがみになる、癖のある歩き方で 葉山は繁華街のメインストリートに足を踏み出した。 クリスマスの街並みは色とりどりのイルミネーションに彩られて おとぎ話の世界のようにきらめいている。 商店の呼び込みの声、行き交う人々の笑い声が 耳が痛くなるくらいに騒がしい。 それは夜が深まるにつれ、一段と賑やかさを増していった。
(あ〜〜あ。やっぱりこんな日に買い物に来るんじゃなかったな)
後悔したが、年内に提出しなくてはいけないレポートの参考文献がどうしても必要で 大きな書店に行くしかなかったのだ。
(これ出さないと二回生に上がれないかもしれない・・・)
はぁ〜。とため息をつく葉山の横を、同じ年くらいのカップルが通り過ぎていく。 彼女の手には買ってもらったばかりのブランド店の紙袋が握られている。 それを見ながら彼氏に話しかけている彼女を、 満面の笑みで見つめている彼氏。 はぁ〜〜〜〜。先ほどよりも、もっと重く苦しいため息をついた。
(ほんとだったら、俺も今頃、彼女とデートのはずだったんだ!!なのに・・・)
突然別れを告げられたのは三日前だった。 理由は 『ごめん!別に好きな人がいるから』 これだけだった。 同じ大学の同じ学部だったのでウワサはあっという間に広がっていく。 友人達の話によると、どうも自分は二股かけられていたあげく クリスマス前に本命一本に絞り込んだ彼女に捨てられた・・・ ということらしかった。
(あーそうだよ!よくある話だよ!俺はバカだよっ! なんだってあの女、二股なんてややこしいことすんだよ!! チクショー!なんだよコレ!この日のためにバイトしてたのによ! ほんとなら今頃、ティファニーかなんかの紙袋持ってるはずなのに、 なんで紀伊国屋のごっつい袋持ってんだよ!俺!!)
考えれば考えるほど怒りがフツフツと湧き上がってくる。 一人でカッカッと熱くなってさらに大またに歩く葉山の横を また楽しげなカップルが通り過ぎていった。 通りすがりにチラっと葉山の方を見ると二人で何事か話し合っている。
(・・・だめだ。このままだと神経がもたん。少し遠回りになるけど 裏通り通って帰ろ・・・)
葉山は迷うことなく、次の角を曲がった。 裏通りに入ると怪しげな飲み屋などがズラッとならんでいる。 人通りはぐっと少なくなった。 が、今度は“おにぃ〜〜さぁ〜〜ん”という甘い呼び込みが襲ってくる。 何だか余計、惨めな気持ちになって葉山はいっそう、歩幅を大きくした。 ──その時、男の声が呼び止めた。
「おにぃ〜〜さぁ〜〜ん。俺と遊んでかない?」
葉山の足が止まった。
(チックショ〜〜〜!!なんだよ!男まで!俺、そんなにみじめったらしいのかよ!!)
ブチ切れ寸前。何か言い返してやろうと振り返る。
「うっせーぞ!!てめぇ・・・」
言葉は途中で途切れた。
「お、お、おまえ・・・おまえ・・・遠野・・・!!」
そこに居たのは葉山の高校時代の親友 遠野正弥だった。
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