#2
「や〜っぱり葉山だった。あんたのその歩き方ですぐ分かったよ」 「お互い代わり映えしないな。おまえ、相変わらずちっちゃいし。 まだ中学生に間違えられてんのか?」 「うっせー!!」
あのまま、立ち話もなんだからということで 歩いて10分ほどの所にある葉山のマンションで酒でも。 ということになった。 連れ立って歩きながら、当たり障りのない会話を探り探り交わし、 途中見つけたコンビニで酒とつまみを買い込んだ。 大学入学と共に一人暮らしを始めた葉山のマンションは 八畳ほどのワンルーム。 ベッドとTVと、必要最低限の物しかない、殺風景なものだった。
部屋へ入いると速攻、買い込んだ酒とつまみを、 フローリングの床に所狭しと並べて、とりあえずビールで乾杯! 一息つくと、話はぐっと砕けたものになった。
「こうしてゆっくり話すの一年ぶりくらいだな・・・会うのも一年ぶりか・・・」
葉山の口調にはなんとなく、何かを言いたげなためらいがある。
「・・・そうだな。お互い大学違うし。俺らの高校って3学期は学校なかったし。 始業式と卒業式だけー。みたいな」
そう言うと遠野は屈託の無い笑みを見せた。 ──こうして見ると、遠野に変わったところは見られない。 相変わらず華奢だし、中学生に間違われる童顔も、無邪気な口調も 昔のままのように見える。 だが・・・。遠野と同じ大学に行っている友人や情報通の友人に聞いたところでは・・・。
──遠野、大学辞めたぜ。 何だか、あいつの姉ちゃんが、ちょっとやっかいな病気になったとかで エライ借金ができたって。でさ、あいつんち、両親いないだろ。 それで、あいつ借金返すのに・・・──
「どうしたんだよ。もう酔っちまったの?」
黙り込んでしまった葉山へ、少しからかい気味に遠野が声をかけた。
「あ・・・いや。バカ言うなよ!缶ビール一本くらいで酔わねーよ!」 「ふ〜〜ん。俺、てっきりあんたは酒に弱いんだと思ってた」 「んなことねーよ。普通だろ」 「ならいいけどさ。また悪酔いしてんのかと・・・」 「バカッ!俺が悪酔いしたのは文化祭のあの晩・・・」
“・・・だけ” を葉山は慌てて飲み込んだ。 できるなら思い出したくなかった。秋の文化祭。 打ち上げと称して、夜の学校に男子生徒10人ほどが集まり秘密の酒盛りがはじまった。 その時初めて飲んだ缶チューハイで、葉山は完璧に悪酔いしてしまったのだ。 吐いてもまだ気持ち悪くて、遠野に付き添ってもらって 校舎の屋上で一休みすることになった。 夜の屋上は風が気持ちよくって、夜景がキレイで、二人っきりで・・・・・。
(わ〜〜!!やめやめっ!俺マジで酔ってたんだ。ほんとに!)
あの時の気まずい空気を思い出して 葉山は慌ててなんとか話題を変えようと必死になった。
「そ、そ、そうだ。中村おぼえてるだろ?機械オタクの。 あいつどうしてる?元気か?確かおまえと同じ大学だから・・・」
“しまった!”葉山はまた自分が地雷を踏んでしまったことに気づいた。 遠野と同じ大学に行っているヤツの近況を聞くということはすなわち・・・。 しかし、遠野はまったく何でもないことのように
「知らない。俺、大学辞めたからさ」
そう言うと、葉山の顔を覗き込み、 ニコッといたずらっ子のような笑みを浮かべた。
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