#3

 

「そ、そ、そうか。え〜〜と。その、なんだよな。その、なにかっていうと・・・」

 

一人慌てて、焦っている葉山を見て、遠野は吹き出した。

 

「アハハハハ!・・・あんたってほんと変わんないな。

バカ正直なの!顔にぜ〜んぶ出てるよっ!」 

「えっ・・・!?」       

「俺のうわさ、聞いてるんだろ?あんたも」 

「あ・・・あの・・・」 

「いいよ。隠さなくても。誰からどういう風に聞いたか知らないけど

だいだいのところは合ってるんじゃないかな」

「じゃあ・・・」

 

遠野は缶に残ったビールを一気に飲み干すと

空き缶をぐっと握り締めた。

 

「・・・俺の姉ちゃん、憶えてる?」 

「あぁ。憶えてるよ」

 

高校一年のときに同じクラスになって意気投合してから、

遠野の家には数え切れないくらい、遊びに行った。

その時に何度か遠野の姉に会ったことがある。

弟が一人居る自分には、“姉”の存在がひたすらうらやましく、あこがれの存在だった。

 

「確か俺らより六つ年上で、すっごくかわいくて、美人で・・・」 

「そ。俺に似てね。・・・その姉ちゃんが夏ごろ、やっかいな病気にかかってさ。」 

「病気って・・・」 

「今すぐどうこうってことはないけど、ほっとくと命にかかわるって。

長期入院して、治療しないといけないって。

ほら、俺んち三年前に事故で両親亡くしただろ。

それから姉ちゃん一人で働いて、俺を大学までやってくれてたわけよ。

俺としちゃさ、どうしても助けたいじゃん。

で、姉ちゃんの命助けるには、とんでもない医療費が要ったわけ」

 

『どうして一言、相談してくれなかったんだ』 という言葉が

喉元まで出かかったが、葉山はグッと我慢をした。

今の自分にそれを言う資格はない・・・。はっきりとした自覚があった。

そんな葉山をチラっと横目で見つつ、遠野は話を続ける。

 

「でさ、借りれるところから借りまくったよ。ちょっとヤバイところからもね。

返済するのに、大学休んでいろいろバイトしたけど。

でも全然、追いつかなくってさ・・・」

 

葉山の耳に、友人から聞いたうわさがよみがえってくる。

──それであいつさ、普通のバイトじゃ追いつかなくって、

今じゃ男相手のホストやってるって。それもタダのホストじゃなくて・・・

 

「じゃ、あのうわさはほんとだったのか・・・?おまえがあの、えーっと」

「男相手のホストやってるって?」 

「う・・・・・」

 

なんでもないことのようにあっさり言われて

葉山はかえって言葉を失った。

 

「あははは!うわさって早いね〜。当の本人がびっくりするわ。

うん。その通り。おれ男相手のホストやってるよ。

・・・・それも多分あんたが聞いた通り。・・・体・・・売ってたりしてね」

 

相変わらず笑顔のままで遠野は淡々と話し続ける。

そんな遠野を見て、なにか言わなくては・・・そう思うのだが

なかなかこの場に適切な言葉が見つからない。

 

「いつまでたっても返済できないんで、

ある日、俺んちにこわ〜いお兄さん達がやってきてさ

金、返せないんだったら、ちょっと来てもらおうかって

無理やり事務所まで連れて行かれたんだわ」 

「えっ・・・!」 

「俺さ、もうてっきりマグロ漁船かなんかに乗せられて

遠い海に連れてかれんのかと思ったんだけど

そうじゃなくて、あいつらの経営してる男相手のホストクラブで働けって。

で、客取って、体で稼げって」 

「そ、そ、それじゃ。おまえ、ほんとに・・・!」 

「そ。俺、今そういうことしてんの。ま、あいつらの判断は正しいね。

俺、腕力無いしさ。漁船なんてムリムリ!

その代わり、ほら。顔と体はいいからさ」

 

そう言って、遠野はクスクスと笑った。

 

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