#7
「う〜〜う〜〜」
予想もしなかった葉山の行動に遠野は目を大きく見開いた。 驚きすぎて、次にどう行動すればいいのか、全然浮かんでこない。
(なんで葉山がこんなこと・・・さっきまでいつも通りで・・・。 だいたい今までだってそんな素振り、これっぽっちもなかったじゃないか。 二人してバカなことばっかやってて・・・なのに急になんでこんな・・・・・・)
そうこうしているうちにも、 葉山はもう一方の手で遠野のシャツのネクタイを緩めると 首筋や胸にキスを散らしていく。 ようやく開放された両手で、なんとか葉山を押しのけようともがいたが ガタイのいい葉山はびくともしない。 相変わらず口を塞いでいる手も一向に振り払えない。 助けが呼べないとなると、遠野の恐怖はさらに増した。
──こわい・・・・・・!!
と、真剣に思う。 しかしその恐怖が、じわじわと別のものへと変貌していきつつあるのを 遠野は気づきはじめていた。 葉山の唇を指を感じるたびに、体の奥から恐怖とは全く別の 甘い痺れが背筋を駆け抜けていく。
(・・・なに・・・これ・・・どうなって・・・)
抵抗していた両手の力が段々抜けていくのが自分でもわかる。
(俺・・・なんで男相手に感じてるんだ・・・? ・・・・・・葉山・・だから?・・・葉山だから!?・・・じゃ、俺は・・・)
自分で見つけ出してしまった答えに遠野はギョッとした。 そしてそれに気づいてしまうと、もう恥ずかしくて、目を開けていられなかった。 ぎゅっと目を閉じると、遠野は抵抗するのをやめてしまった。
(このまま・・・このまま俺は・・・・・・)
自分で自分がわからなくなってきて、涙がにじんでくる。 頬を伝う、涙の冷たさを感じた時、 遠野は葉山の動きがピタッと止まっていることに気がついた。 押さえつけていた手を離して、慌て身を起こす気配がする。 不審に思って目を開けると、葉山が困惑した瞳でじーっと自分を見おろしていた。
「・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」
痛いくらいの沈黙が二人を包んだ。 校庭の方から友人達のバカ騒ぎをしている声がかすかに聞こえてくる。
「あ・・・・・・」
先に口を開いたのは葉山の方だった。
「あ・・・遠野・・・ごめん」
混乱の極みのような口調での謝罪。 それを聞くと遠野の顔がカーッと熱くなって、真赤になった。 気づいてしまった。自分の気持ちに。 あのまま流されてしまってもいいと思った・・・。 葉山の謝罪の言葉で我に返ると、一気に羞恥心が沸きあがってきて 恥ずかしくて居ても立ってもいられなくなってしまった。
「あの・・・ごめんほんとに・・・」 「うるさい!あやまるな!!」
そう怒鳴り返すと、驚いて硬直している葉山を突き飛ばし、 素早く立ち上がると、乱れたシャツの胸元をぎゅっと握り締めた。
「遠野、ごめんてば!俺・・・」
(うるさいうるさいうるさい!何も聞きたくない!!)
無意識のうちに遠野は、屋上の扉に向かって走り出していた。
「遠野!!」
だが、遠野は一切振り返ることなく、扉の向こうへ消えていった。 バッタンッ!! 重い鉄の扉が勢いよく閉まる音が、夜の屋上に響き渡った。
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