#6
手を振り払うと葉山は勢いよく立ち上がった。 その勢いで辺りの空き缶が賑やかな音を立てて次々と倒れていく。 遠野が傷ついたような表情を浮かべて葉山を見上げたが 湧き上がってくる怒りを抑えることは出来なかった。
「おまえ・・・!よくもそんな、そんなことができるな! 俺相手に・・・体売ろうってのか?俺に金でおまえを買えっていうのか!? 親友だったおまえにそんな事、できるわけないだろっ!! いったい何考えてんだ、おまえ!おれはごめんだね!他当れよ!!」
遠野は先ほど強く叩かれた右手首をグッと左手で握り締めると すっと立ち上がった。
「へ〜え。そんなこと言うんだ。葉山。 いまさらキレイ事なんて、似合わないんじゃないの? ・・・・・あんた、一年前俺にキスしたじゃん。それも無理やり!」 「あ・・・・・・・」
いきなりの反撃に葉山は思わず一歩、後ずさった。
「あれは・・・酔ってたんだ。酔ってて意識が朦朧と・・・」
言葉がしどろもどろになっていく。
「そう。あんた、悪酔いしてさ。校舎の屋上で休むからって。 俺、つきそったんだよね」
(そうだ。俺は酔っ払って、屋上のフェンスにもたれ掛かってたんだ。 そしたら、風が気持ちよくて、夜景がキレイで、二人っきりで・・・・ こいつが俺のこと、心配そうに覗き込んできたんだ)
『葉山、大丈夫か?まだ顔色悪いな。もう少し休むといいよ。 俺ここに居るからさ』
そういって笑顔を見せる遠野の顔が、 やけに可憐で、いつもより華奢に見える。 気遣って話しかけてくる遠野の唇がふっくらと柔らかそうで・・・。 葉山は吸い寄せられるように唇を重ねると、 遠野をしっかりと抱きしめていた。
突然、気遣っていた相手からキスされた上に、 力いっぱい抱きすくめられて、遠野は一瞬パニックに陥った。 慌てて顔をそらしたが、葉山の腕から逃れることはできなかった。
「な・・・なにすんだよ!葉山。ふざけてんのか!」 「とーのー。すきだー。おれとねようぜー」
いささか呂律の回らない口調でそう言うと 硬いコンクリートの上に二人して倒れこんだ。 ガタイのいい葉山に圧し掛かられて、遠野は身動きもままならない。
「ちょ、ちょっと葉山、重いって!いい加減にしろよ!!」 「とーのー。すきー」 「バカ!何言ってんだ。悪ふざけもいい加減にしろよな!」
そう。こいつは酔っ払ってふざけているんだ。と、信じ込んでいた遠野は 葉山を押しのけて立ち上がろうとした。 が、逆に両手首を掴まれて、強くコンクリートの床に押し付けられた。
「すきだー。とーの。だからやらせてー」
耳元でそうささやく葉山の目は赤く濁っている。 その目を見て遠野は一瞬で 葉山がふざけているのではないことを悟った。
(本気だ。本気で葉山は俺を・・・・・・)
その途端、どっと恐怖が押し寄せてきた。 背筋に冷たいものが這い登ってくる。
「や、やめろ・・・葉山!はなせ!はなせってば!! ・・・・・誰か!誰かき・・・・っ!」
思わず助けを呼ぼうとした遠野の口は、葉山の大きな手で塞がれた。
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