#10

 

「ここに居ろ!遠野。どこへも行くな!」 

「・・・・・・あんたほんとにいっつも突然だな」

 

そう言う遠野の声に非難の響きはない。

ホッとしたような、安堵に満ちた柔らかさに溢れている。

 

「どこへも行くな。今夜は俺の傍に居ろ。金なんていくらでも払う。

おまえを・・・・・他のヤツのところへなんて行かせない!」

「うん。わかっ・・・」

 

うなずく遠野の口を唇で塞ぐ。

とにかく今は・・・今夜だけは、遠野を独占していたかった。

それじゃ、明日は?どうなる?

やっと自分の気持ちに正直になれたのに、

こいつは明日になったらまた別のヤツと・・・・・・。

イヤだそんなの!・・・・・・俺は!

目もくらむようなキスが続く。

唇から伝わる熱が、お互いの体を熱くする。

今の葉山に、複雑なことを考えているゆとりは無かった。

 

(・・・・・だめだ!もう何も考えられない・・・)

 

体中から力が抜けていく。

どちらからともなく、そのままゆっくりとベッドへ倒れこんでいった。

 

 

(あったかい・・・人肌ってこんなにあったかかったっけ)

 

遠野を抱きしめながらそう思う。

だが直に触れてみて、葉山は初めてあることに気が付いた。

こいつ・・・震えてる?

 

「おまえ、震えてるんじゃ・・・」

「あ・・・・・・」

「寒いのか?なんならエアコンの温度上げるけど」

「・・・・・・寒いんじゃないよ」

 

そう答える遠野の顔が、切なそうにゆがむ。

 

「もしかして苦しいのか?悪い。俺、余裕無くて・・・ツライんなら・・・」

「違う!・・・大丈夫だよ。全然・・・大丈夫。だから・・・・・・」

 

その後は言葉にせず、遠野はしっかりと葉山にしがみついた。

遠野の仕草にどことなく必死さを感じながら、

葉山はやさしくキスをすると強く抱きしめ返した。

それでどうやら震えは収まったようだった。

そんな遠野の動きの一つ一つが、今は誰よりも何よりも、愛おしい。

 

(そっか。俺、ずーっとこいつだけを追っかけていたんだ。

だからどの女の子と付き合っても、うまくいかなかったんだな。

俺、ほんとにこいつのことが好きなんだ)

 

・・・・・・ずっとずっと、こうしていたい。

 

 

明日のことは何もかも忘れた。

今ある現実はお互いを求める想いだけ。

どこからが自分でどこまでが相手なのかわからないくらい溶け合う。

今夜だけとわかっていても

二人はその幸福に酔いしれていた。

 

 

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