#5

 

(なんだ・・・?この感覚。俺は知ってる・・・なつかしい・・・

こうやって抱きしめて、二人して倒れこんで・・・・・)

 

その感覚と共に蘇ってくる声がある。

“やめろ・・・!葉山・・・はなせよ!はなせってばっ!”

 

チャ〜ララ〜ラ♪

 

突然、鳴り響いた聴きなれない携帯電話の着メロに、

葉山は一瞬で我に返った。

 

「・・・・・・・っ」

 

呼吸が乱れているのが自分でもよくわかる。

慌てて遠野の肩に手を置くと、勢いよく引き離した。

・・・・・その瞬間、遠野の目に戸惑いにも似た影が射したが

すぐまたもとの妖しい光が戻った。

 

「あ〜ぁ。せっかくいいところだったのにな〜」

 

そう言うと、脇に置いておいたジャケットのポケットから

携帯電話を取り出した。

 

「はい・・・ええ、遠野です。あー。連絡遅くなってスンマセン

今ですか・・・。ええ・・・そうです。わかってますよ。だから・・・。

はい・・・はい。じゃ、また後で連絡しますんで。シツレイシマス!」

 

通話の切れた携帯電話を、遠野は黙り込んだまま、

じーっと見つめている。

が、すぐにバタンと勢いよく閉じると、元のところへしまい込んだ。

 

「店長だよ。俺が勤めてる店の」 

「あ、あぁ。そうか」

 

急に現実に引き戻されたような気がして、

頭に上っていた血も、一気に冷めていった。

 

「俺が、客引きに出たまんま、いつまでたっても帰ってこないんで

逃げたと思って連絡してきたみたい。ばっかだね〜」 

「客引き・・・?」 

「ほらさ。クリスマスって、この業界ヒマなわけよ。

みんなカップルでお楽しみだからさ。

俺んとこの店も、お馴染みさんも来ないし、もうヒマでヒマで。

で、店長が外行って、客引っ張ってこい!って」

「・・・それでおまえ、あんなところに立ってたのか」 

「そーそー。でも、なかなか捕まんなくてさ。

もうど〜しようかな〜って。こんなとこで凍死すんのか〜って。

そしたら・・・・・」

 

遠野は無邪気に笑うと、そっと、葉山の膝に手を置いた。

 

「・・・あんたが通りがかったんだ。

ほんとさ“ラッキー”ってマジで思ったね!ノルマ達成―!って」

「な・・・なに・・・じゃ、おまえ、本気で・・・」

 

下がりかけた血が一気に頭へ駆け上っていく。

 

「おまえ、本気で、俺相手に商売するつもりだったのか!?」

 

葉山の激しい問いかけに、遠野は何かを言いかけたが

すぐにその言葉を飲み込んだ。

そして、ためらいを振り切るように、2,3度首を振ると

ぐっと、葉山の目を見つめた。

 

「・・・あたりまえじゃん!じゃなきゃ、声なんてかけないよ。

こんなとこまでついてこないしさ」

「・・・・・・・!」 

「あ、でも安心して葉山。今日はサービスで店外料金は取らないからさ。

・・・なわけで・・・。携帯はマナーモードにしておいたし

もう邪魔は入んないって・・・だから・・・・・」

 

遠野の手がスーッと葉山の頬に伸びる。

 

バシッ!!

 

部屋中の空気を震わすような物凄い音を経てて

葉山はその手を振り払った。

 

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